新型コロナと研修会(2)
前回に引き続き、新型コロナ感染拡大防止時の研修会対応はどうするか、です。
前回も申し上げましたが、実は「何もしない」という選択肢は確かにリスクも少なく負担もないのかもしれません。ただ、課題はそのまま目処が立たないまま保留されることになります。
この問題は鳥獣被害対策にとどまらず、全てに通じるのかもしれません。「コロナだから」という言い分での思考停止に陥らずに、「今だからこそ何をすべき」で「そのためには何ができるか」が、おそらく今後の対応能力の分岐点になるかと感じています。
話を鳥獣被害対策に戻します。鳥獣被害対策の中でも、集落環境診断をしていましたが、集まってできない、ということから、形を変えて「集落環境調査」+「要点の情報共有」に切替えました。つまり、集落環境診断で行う専門家の事前調査を強化して、その結果を地域住民の方、役員の方、市町村担当者に色々なチャンネルを使ってフィードバックをしました。
こちらは過去のものでサンプルになりますがある集落の3次元モデルです。(ここでは意図的に解像度は下げてあります)。
Works(Apr. 2017) : A village by 合同会社山本技術研究所 on Sketchfab
集落環境診断の踏査の際には集落を丸ごと高解像度の3次元モデルにするようにしています。そうすることでけもの道の空間的な記録や耕作放棄地の配置状況など、現地踏査で平面的に歩いて写真を取るより、格段に記録できる情報の量を増やせます。また、現場から戻った際にも、振り返って確認することができるので、対策計画の戦略づくりでも重要な資料となります。
3次元モデル内に「アノテーション」と呼ばれるいわば「注目ポイント」を設けていきます。そこには現場での写真やけもの道のオーバーレイ、対処方法を記載していきます。そうすることで、擬似的に集落内を踏査して問題箇所を確認できる追体験になります。
もちろん、本来は現場を歩くことが重要です。人によっては「現場を歩いて見ないで何が調査だ」と思われる方もいらっしゃいます。しかし、実は現場を歩かないでいいとは一言も言っていません。要は、集まって研修ができない時に、どうやって実例で学ぶかです。集落環境診断の踏査部分の目的は「侵入箇所を見分ける力や侵入原因を見つけること」が含まれているので、そのトレーニングに使えるのです。また、この知識を得た後に、研修じゃない時や散歩がてら歩いて見ればいいものなのです。
専門家側としても研修会の解説や資料作りの労力を、最初の調査時の労力にするだけで、作業負担量はそこまで多くなりません。(この点どうしてもイメージができないと、わからないが故の「予算が・・・」といった理由で敬遠されてしまうことがあります)まずは、そこは聞いてみても無駄にはなりませんので遠慮なくご相談ください。
さて、ここまで読み進めてくると、「じゃあ、どうやってそれを地域の方に伝えるの?」という疑問が湧いてきます。
集落ペルソナをもって考えてみましょう。例えば、若い世代が平日昼間外に仕事に出ている集落としましょう。(その他の事例も追って例示していきます。)
まず、どのような集落構造であっても全ての場合で共通する対応は、各世帯に対する調査報告の配布です。
ここでいう調査報告は、市町村役場に出す事業報告書のようなものではなく、例えばA3両面、カラー刷りでフォントサイズも配慮された集落の獣害危険マップ(注釈付き)のようなものです。空撮画像で地図を作るので、直近の集落の全体像が見れます。そこに、けもの道や被害状況、防除状況とその問題点をまとめたものを必須の調査報告として1世帯1枚、配布します。いわば、日常の回覧板での+αの情報ですし、回覧板はほぼすべての世帯で読まれます。
そしてこの集落ペルソナでは、比較的インターネット回線が自宅にある場合が多いと想定できます。先程の回覧文書に、3次元モデルにアクセスできるリンクを配布用紙内のQRコードで載せておくのも手です(又は市のウェブサイト内のリンクや短縮URLでもいいです)。鳥獣害対策は比較的、年代での分断がある問題です。農業をしていない、外に働きに出ている若い世代にとっての関心事になりにくいものです。そこにオンラインコンテンツで何らかの「きっかけ」となるのも必要です。今まで言うなれば「泥臭い」イメージの鳥獣被害対策を、デジタル・ネイティブ層にも受け入れられるアプローチがいいかもしれません。また、そこに関わる際に自身に発生する生活上のインセンティブを自覚できるようにするのもポイントです。
少し長くなってので、次回は別の集落ペルソナをお話します。