被害の大きさを調べるには?

前回、被害金額について教えてもらいましたけど、被害の現状を正確に掴むのは相当、ハードルが高いと感じました。
いっそのこと諦めちゃおうかな。

いやいや、諦めちゃダメです。諦めたらそこで試合終了ですよ。
何度も言いますが、被害の現状を正確に把握しなければ有効な対策は打てませんから。

被害の情報を集めるだけでも大変なのに?

もちろん、全ての被害データを集めるのは現実的ではないですが、限られたデータから“被害が起こりやすい傾向”を掴むことは可能です。
あと、被害情報を集めるにも方法があります。長くなるので、次回以降にお伝えしましょう。

ほう。どうやって?

方法の一つに、「GIS」の活用があります。

じー・あい・えす?

GISとは「Geographic Information System : 地理情報システム」のことです。ざっくりいうと、情報をまとめられる地図です。
日常でもGISはあちこちにありますよ。カーナビにお気に入りの地点を入れるのだって、一つのGISです。
これを使えば、被害があった場所を地図に落とし込んで、被害が「いつ」「どこで」起こったか可視化できます。

被害の可視化、ですか。

そうですね、まずは、これをみてください


これはGoogleマップ!?


うーん、被害があった場所、寺や神社が目立ちますね。
まさかアライグマにも宗教心が・・・はっ!そういえば、彼らは手を合わせる仕草をする・・

話は聞かせてもらった。人類は滅亡する!(参照:MMR)
(※昭和世代が執筆しています)

古!

(せっかくボケ返したのに・・・)
では寺や神社の建物に共通することありませんか?

それこそ、、、古!ってこと?

正解!(なんだろう、これは・・・偶然?)
昔に建てられた古い日本家屋であることが多いですよね。また常に人が暮らしている場所ではないことも多い。

空き家だから侵入しやすいってことですか?確かに建物が古ければ、アライグマが建物内に入り込める隙間もありそうだけど。

ええ。
他にも地図から気づけることがありますよ。
(まぁ、あくまでサンプルなのですが・・・)

えーと、被害があった時期が5月6月に偏っているような・・

そうですね。まとめると
・古い日本家屋で人が住んでいない建物
・被害が5-6月に集中している
実は、この2点だけで、アライグマの、ある習性が見えてくるんですよ。

えっ?なんだろう。。

5-6月の時期はアライグマの繁殖期にあたります。
子供を出産して育児する時期なんです。

はあ。

言い換えると、彼らにとっては雨露をしのいで安心して子育てできる場所が必要な時期です。

あっ!!
安心して寝泊まりできる場所といえば・・

そう!アライグマにとって、人の気配がなく、雨露をしのげる寺や神社(の天井裏など)は子育てするのに都合がいい場所なんです。


なるほどー。
でも空き家だったら、人に直接、危害が加わるわけじゃないし、被害は小さいのでは?

「被害」の捉え方ですね。こういう被害を「生活被害」ともいいます。
まず建物に被害を与えますね。柱や壁を引っかいたりとか。それに、屋根裏で糞尿をします。
寺や神社は古い分、貴重な文化財であることが多いですから、それだけ被害も大きくなります。

また、済みつく場所を与えるということは、その周辺環境にも悪影響を与えます。例えば、住み着いた神社の近くに畑があったら、そこの作物に被害が及ぶ可能性が高くなります。

お隣さんの玄関の軒先にハチの巣ができたら、じぶん家は関係ない、とはいかないもんなぁ。

ダニや狂犬病などもありますが、さらに要注意なのが、彼らの糞。
アライグマ回虫症という感染症の引き金になって最悪、死亡するケースもあるんですよ。

ひえ~怖い。そもそも住み着かせないようにしなきゃダメですね。

そう。そのためには、アライグマの出没しやすい場所を予測しなきゃいけません。
予測するためには、被害から傾向を見出す必要があります。そのための地図化、というわけです。

5-6月に空き家や古民家がある地域は要注意、ということが分かっていれば、対策も立てやすいと。

そうですね、センサーカメラを活用して動線を把握するといいですね。
要注意な場所にわなを仕掛ければ、捕獲できる可能性も高まるわけです。
行政の立場で言えば、何をすべきかが見えれば来年度の予算が決められますし、ちゃんと効果があるところに予算を集中できます。

集めた情報が、年々積み重なれば、地図化によって見えてくるものも増えそうですね。

その通り。
年々の被害の推移を見える化すると、そこから読み取れる情報にも厚みが増します。被害情報を集めるモチベーションも上がるでしょう。情報を「かけ捨てる」のではなく、「積み上げたくなる」作用が地図化にはあると思います。(参考:被害を減らすことができるデータとは)
つづく