被害の大きさはどれぐらい?

ひとえに鳥獣害と言っても、いろんな被害があることがわかりました。日本全体で見ると、相当なものになりそうですね。

ええ。全国の被害金額は約160億円と推計されていますよ。
https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/hogai_zyoukyou/

160億円!?
これはなかなか大きい金額ですね。

そうなんです。そういえば、学生の時、先生とその話をしていたら「ああ、ウチの大学の年間予算の約3分の1程度だよ」と言われたのが印象的です。

うーん、逆に分かりづらいっす。。
ていうか、大学の予算って巨額やな!

そうそう。だけど実は、この年間被害額160億円。
これはかなりの過小評価でもあったりするんですよ。

えっ、実際はもっと多いと?

残念ながら、そう言わざるを得ません。
と、言うのも被害金額の算出方法にまだまだ課題があるからです。

どうやって算出しているのですか?

自治体によってその精度に差はありますが、担当者が、地域住民や農家から被害の報告を受けて、それをもとに被害金額を割り出しているのですよ。また、出し方としても、「農作物の種類(基準価格)」「被害量」「被害面積」を使って計算するのが「理想的な標準」です。結構手間がかかりますよね。
とはいえ、そもそも被害を受けた全員が地元の市町村に報告すると思いますか?

えっ、そこはみんな協力してやっていかなきゃ。。。
少なくとも僕らの世代は「友情、努力、勝利」と教わりましたよ。

いやいや、現実は漫画の世界のようにはいかないんですよ。
まず、そもそも被害の報告義務はありませんし、それをしたところで保険的なものがない限り補償もされるわけでもないですし。
うめさんだとどうでしょう?庭のトマトがサルにやられるたびに市役所報告します?

うーん、最初は珍しくて腹も立つし報告するかなぁ。だけど、報告しても変わらなければやらないかも。
そうなると確かに報告しない人が出てきてもおかしくない、かなぁ。
そうか、家庭菜園レベルの被害だったら、わざわざ報告しない気がする。育てた野菜を売ってお金にするつもりがなければなおさらだし、それに大規模に作っていても、報告してもメリットなければわざわざ報告する人も減る気もする。

いい気づきですね。
そう、販売農家さんは報告する可能性はあるけど個人はしていないことが多いです。
ましてや面積が小さい自家消費農家は農業共済に加入していない方も多いです。

農業共済?

主に自然災害ですが、鳥獣害でも農作物に被害を受け減収となった時に補償が出る共済です。

ああ、損害保険のようなものですね。

そうですね。
水田の場合であれば、面積も広く掛け金の安さもありかなりの農家さんが農業共済に加入しています。
果樹については面積要件に加え、掛金のこともあり比較的少ない模様です。

ふむふむ。。。
しかし、その農業共済が被害額の把握にどうつながるのです?

農業共済に入っていれば、補償の計算のために被害の調査がされ、被害に関する情報がしっかりとられるのですよ。また、基準単価もあるので、被害金額は明瞭ですね。

そうなんですね。
だけどそれがない場合は・・・「個人的な推定」がされるんですか?

一応、作物の市場の基準単価があるので、それを推定値に掛け合わせて金額を算出することはありますね。
ただ、大元の被害報告が十分でない場合は推定も含まざるを得ません。しかし、市町村の担当者の方々もその点をカバーするために、農業委員さんに協力してもらったり、電話でヒアリングをされていますよ。

ここの畑で作られたサツマイモの単価はこれくらいだろう・・・なんて、一つ一つ丁寧に計算していたら膨大な時間がかかりそう。
しかし、現場ではそういう苦労もあるのですね。しっかりと被害の状況が把握されなければ対策も立てにくくないですか?

そうなんです、今ある被害を100として、それを50にします、といった対策目標立てれませんからね。
あと、ここまで話してきた被害金額の算出の仕方にも課題があるんですよ。

え、「被害金額」ってわかりやすくないですか?

ここで問題です!(デデン)
例えば、ここで被害報告が2件があったとします。
それぞれ被害量は800g、被害面積は1平方メートルとします。

ここまでは一緒ってことですね。
てことは基準単価の2倍ってことですね

ブブー!甘い!まぁ、最後まで聞いてくださいな。
1つの被害はシャインマスカット1房、もう1つは大根1本とします。

うっ・・・。そうきたか。
えーと、金額で言うと、シャインマスカットは1房1500円、大根は150円ぐらいかな。
被害額で言えば10倍の差があるな。。。

そうなんですよ。「被害量」と「被害金額」は雲泥の差があるのです。
例えば、ある年の被害が大根30本、シャインマスカット2房だったとしましょう。
翌年の被害は頑張って対策をして大根5本、だけどシャインマスカットが狙われて6房に増えたとすると?
まず被害量はどうでしょう?

えーっと
(大根30本+シャイン2房)✕0.8kg=25.6kg
(大根1本+シャイン6房)✕0.8kg=5.6kg
被害量はなんと7割超減!いいですねぇ

そうですね。被害面積もこれでいくと大根の被害量が大幅に減り、シャインマスカットの被害が相対的に少し増えた程度だので被害面積も減りますね。
では、「被害金額」はどうですか?

なんか、鶴亀算を思い出すな。。。
(大根30本 ✕ 150円)+(シャイン2房 ✕ 1500円)= 7500円
(大根1本 ✕ 150円)+(シャイン6房 ✕ 1500円)= 9150円
ん?
んんん?? あれ?被害増えてますね・・・

そうです。がんばって対策をして被害をたくさん減らしても金額が増えていますね。
ここで最初の話しに戻りましょう。全国の被害金額覚えてます?

確か、約160億円・・・あれ?これは「何」の被害金額でしたっけ?

そう、この金額はいろんな作物の被害金額のいわば「ちゃんぽん」なのですよ。

(ちゃんぽん・・・学生時代をフラッシュバック・・・)

これで「去年より被害が減った!頑張った効果だ!」という評価、できそうですか?

いやいやいやいや、無理でしょう。だって単価が高ければ、単価の安いものは相殺、いや、マイナスまでなりますよ?
あと、これまでの話で気がついたんですが、鳥獣害にあって、報告しない人が増えたり、離農する人が増えたら被害金額が減って、それこそ「被害が減った!」と見誤ってしまいそうですね。

そうなんですよ。
ちゃんとした数字を把握することは対策の大前提です。それもとられず、バイアスを与えやすい評価基準は、むしろ獣害対策という社会インフラの重みづけを見誤ることにもなるのですよ。

なるほど。一見して「被害金額」に目を向けがちだったけれど、被害の大きさを正確に判断するには「被害量」「被害金額」「被害面積」それぞれの中身を丁寧に見る必要がありそうですね。

では、次回は被害の調査方法について話しましょうか。